渓流ルアー釣りにハマった僕は、手始めに近くの図書館で渓流釣りの本を何冊か借りた。
良い本もあったし、参考にならない本もあった。でもとにかく図書館は近くて、本は無料で、僕は渓流釣りに対する知識が欲しかったのだ。
渓流釣りについて、渓流ルアー釣りについて、僕は少し知識を持ったと思う。
そして僕には釣り友達(?)がTさんの他に一人いる。
Yちゃんと呼んでいる。
Yちゃんは僕の嫁と非常に仲の良い友達の旦那さんだ。
年は少し下だが製造業に勤めており、手先も非常に器用な方だった。
僕は機械と聞くとしり込みし、手先の不器用さには定評がある。ちなみに字もすごく汚い。
単車には昔乗っていたが、構造については素人で、30代になるまで都市部にいたため車も持っておらず、今の住まいに引っ越して初めて車を買った。
タイヤ交換の仕方も知らなかった。電動ドライバーにも今の会社で初めて触った。 ようは機械音痴だ。
対してYちゃんは旧車が好きで機械いじりが好き、農業は畑も田んぼもする。釣りも僕より詳しかった。
針も自分で巻いていたし、釣りについては僕の先輩である。タイヤ交換の仕方も教えてもらった。
Yちゃんとは2013年から海釣り、サビキや投げでアジやセイゴを釣りに行っていた。
年に数回だったが、この下地があったから2014年の渓流釣りも比較的スムーズ(?)に入れた。
そんなYちゃんと僕は子供の年が近いこともあり、よく会った。
会うと釣りの話をした。
すると必然の成り行きとして二人で渓流釣りに行こうという話になった。
僕は覚えたての渓流ルアー釣り、Yちゃんは餌釣りだった。
Yちゃんはたしか、自分の家の畑からとったミミズを餌にしていた。さすがだ。
僕らは同じ車にのって、川に向かった。
そして、川にYちゃんを降ろして僕が少し先に車で進み、ともに釣り上がったり釣り下がったりした。
合流して次は順番を変わったり、しばらく経ったら車に近い方が上がったり下がったりしてもう一人を探して合流すると言った形で釣りをしていた。
方法として正しいのかはさっぱりわからなかったが上記の方法しか考えつかなかった。
今となら餌とルアーだし、二人が近くで釣っても釣れないことはないと思うが、当時は距離の開け方も何もわからず、ただ、お互いが見えなくなるか、見えるぎりぎりまで離れた。
Yちゃんは渓流釣りは子供の頃以来と言っていたが、子供の頃にはお父さんとイワナ釣りに行ったりしていたらしい。
昔とった杵柄で餌で何匹か釣っていた。サイズ的には15センチに届くか届かないくらいだった。
僕はルアーで、途中まで釣れていなかった。
僕は初心者であることを自覚はしていたが、一緒に釣りに行った仲間が釣れて、自分がボーズでにこやかでいられるほど紳士ではなく、悟りもひらいていない。
釣り全般では先輩でも渓流釣りは今年何度か行っている自分の方が上では?
とおこがましいことを考えてもいたのだ。空恐ろしい思い上がりだった。
心中穏やかでなかった僕は、行動範囲を広げて行った。
先行していた僕がアマゴかイワナの養殖場を見つけた。働いている人は朝早いせいか誰もおらず、Yちゃんもまだ下流にいた。
水槽なのか、井戸が浅く大きくなったような円形の中には小さな
魚たちが同じ方向に向かって泳いでいた。
釣り上がってきたので当然だが、養殖場のすぐ横にも川が流れていた。
僕は閃いた。
ここに養殖場があるからには、大雨や台風や、その他状況で川に流れた魚がいるはず!
養殖場から川はすぐ隣だった。
確かに距離はすぐ隣だった。
しかし、高低差は2m以上あった。
僕は躊躇なく飛び降りた。
そして、上流から下流に向かって、所謂ダウンでスピナーを投げた。
ダウンの釣りのなんたるかなど何もわからないまま、ただ勢いで降りた川は釣り上がるのが厳しく、
なんとか釣り下がるほうが出来る地形だったからだ。
スピナーが水面に落ちた瞬間バイトがあった。
しかもデカイ。
ウルトラライトロッドがしなり、ドラグも出た。
自分も川の中に立ちこみながら、ネットも持たず釣り上げた。
釣り上げた後にばれなかったのは運が良かったかかかりが良かっただけだと今では思う。
釣り上げたイワナは25センチあった。
僕の手は震えながらビクの中にイワナを入れた。
飛び降りたはいいものの、僕は完全に川の中に立ちこんでいて、上がれるようなところもなかった。
僕は川に立ちこみ下りながら、またスピナーを下流に下りながら投げた。
今度は着水してもヒットしなかった。
タダ巻きしながら足元までスピナーは近づいて来た。
そして足元の落ち込み、白泡のとこで衝撃が来た。
「バクッ」
というのがぴったりの表現だった。
僕とスピナーの距離は1m
白泡の中のヒットだった。
足元のヒットだが手応えは十分にあり、二匹目の25センチほどのイワナを釣り上げた。
この近距離でヒットしたことも驚いたが、僕は僕なりにダウンの威力を肌で感じ取った時だったと今にして思う。
それから僕を探していたYちゃんが頭上から顔を出した。
横の距離としては1m。縦の距離としては2m近い。
勢いよく降りたものの、上がることが出来なかった僕には地獄に仏だった。
僕はYちゃんの手を、文字通り借りて、ファイト一発的に地上への生還を果たした。
具体的には壁に足をかけ、Yちゃんの手を握り、壁の足に力を入れて、手は壁の上を掴んで、Yちゃんが引き上げ、それらが合わさってようやく生還した。
一人では上がることが出来なかったと思う。
僕は強く思った。
後先考えずに降りるのは止めようではなく、手を借りなくては登れないほどの段差がある川だからこそ釣れたのだ。と。
リスクヘッジより、人がいかなさそうな段差の川にむりやり降りたからこそデカイイワナが釣れた。
そう思ってしまった。
結果、僕の25センチ近いイワナ2匹がその日の一番だった。
その日ウェーダーも履いていなかったYちゃんはかなり悔しがった。
僕は機動力の差と思った。
機動力というか行動力というか、一人では上がれないところに飛び降りた向こう見ずにくれたご褒美だと。
しかし、一人では上がれないほどの段差にいた僕に、ファイト一発ばりに手を差しのべてくれたYちゃんの暖かい心と手の平は今でも覚えています。
そして、飛び降りたら一人では登れないような場所に行ったからこそ釣れたのだと。
今でもこの考えたは生きていて、人が行かない、面倒くさがる場所に行く。
という考えはずっとある。
そしてそれはある程度正しいと思っている。
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